「電子レンジアワー」を手に取ってくれて、そしてここまで辿り着いてくれてありがとう。
この作品のテーマは「がんばらない」です。ひとつも、踏ん張ってる曲がありません。 がんばったのに結果が出なかった人、愛や夢を選ばなかった人、それでもなんとか生きている、そういう私たちだって日々何かを積み上げている。主人公になる機会のほとんどない感情を、すくいあげて歌にしています。

収録曲の母体となっているのは、前作をリリース後に続けてきた、弾き語りワンマンライブシリーズのなかで毎回発表してきた歌です。アコースティックギター一本で表現できるものを意識してきたので、作品全体のサウンドも、中心にアコギと歌があって、できるだけ飾り付けをせず成立させるアレンジにしています。
夢とか、恋とか、仕事とか、人生のいろいろ。それぞれのピークを一旦通り過ぎて休憩中の人。
そういう人に聴いてもらえたら嬉しいです。




1. 涙色ランジェリー / &矢井田瞳 MV
失恋後のヤケクソ感を歌った歌です。
女性のクリエイターと一緒に作る、というイメージが、作品全体にありました。音だけでなくアートワークなども含めて。小学生の頃の私のスーパーヒーローだった矢井田瞳さん。以前ご挨拶だけさせてもらったことしかなかったのに、いつか一緒にお仕事をさせてもらいたい...という夢を今回、突拍子もなく、僭越ながらも、実現させてもらいました。

弾き語りワンマンライブで何度か歌っていた歌でしたが、ヤイコさんと一緒にスタジオに入って、全体の構成やコード進行、歌詞の世界観など、アイデアをたくさん加えて頂き、現在の形に完成しました。

レコーディングで実際に、ヤイコさんの歌う声をたっぷり堪能させてもらって、すごく勉強になりました。ファンの皆さんごめん私だけ...!

ちなみに、エロい下着の造形についてのヤイコさんの見解は「貝殻」でした。



2. くしゃみ
遠距離恋愛の歌です。
今年の春から、宮城でレギュラーラジオ番組をやらせてもらっているんだけど、新幹線で東京との間を行き来する度に感じる、季節や空気の微妙な違いなどを、恋愛の距離感と重ねて歌にできないかなと思って書きました。

学生の頃から付き合っている20代のカップル、彼が仙台に転勤になります。新しい環境での仕事に忙しい彼。積み重ねてきた時間も想いもあるのだから、信じてるけど、でも不安で、いやみなことばかり言ってしまう彼女。このふたりのイメージは成田凌くんと杉咲花ちゃんです(某ジュエリーブランドの広告をインスタで見かけて。そのショートムービーに号泣するアラサー)。

演奏は、GOOD BYE APRIL。ボーカルの倉品くんの声とアレンジは、古き良きニューミュージックの香りを感じます。本当に彼らの音楽が好きなので、今回もぜひ演奏してもらいたかったのです。同い年のベースえんちゃんと考えた歌詞は少し重ための女の子の心情なので、サウンドは風通しのいい爽やかな春の風を吹かせたいなと思いお願いしたら、THE・エイプリルサウンドが出来上がりました。



3. 休みの日 MV / リリックビデオ
JUN SKY WALKER(S)の名曲をカバーしました。
私にとって、自分以外の誰かの歌を歌うというのは、花の種を蒔くような作業です。もう既に美しく立派に咲いている花、たくさんの人に愛されている歌を、もっとたくさんの人に知ってもらい、愛してもらうように、広めていく行為だと感じます。

この曲を初めて歌ったのは、弾き語りワンマンライブだったのですが、カバーすることに決めて改めて歌詞を読んで思い浮かんだのが、昨年リリースしたアルバムのタイトル曲「ベッド・シッティング・ルーム」です。女性目線が「ベッド・シッティング・ルーム」、男性目線が「休みの日」として聞いてみると、ある恋人同士の別れの話として、同じ絵が想像できました。この作品がリリースされたのは30年近く前です。時代も性別も違う人間が描いた話がシンクロするなんて、フシギです。恋の気持ちはいつの時代も普遍的なテーマなのでしょう。

この曲は、作曲者ご本人である寺岡呼人さんにプロデュースして頂きました。原曲を一番理解している人に、新たなイメージをこの歌に吹き込んでもらうことに、とても興味深いものがあります。

元々は、ボーカルの宮田さんが実際に経験された恋のお話ですが、私の中性的な声で歌うことで、また違った物語が見えてくると言ってくれた人がいました。まだ小学生の娘さんを持つパパで、娘のことを想いながら聞くと目頭が熱くなるんだよ〜と。確かに。その目線で想像すると、恋人同士よりも父と娘の話にしか自分でも聴こえなくなってきました。



4. 君のいちばんにはなれない
弾き語りワンマンライブで発表した1曲。昨年の12月頃の、寒い時期を思い出します。

恋愛の後ろ暗い部分を歌ってみたいと思って作った歌です。この曲も、寺岡呼人さんにプロデュースして頂きました。寺岡さんと、歌詞のやり取りを綿密にしたことが印象深いです。詞の舞台として、初めは部屋の中の設定だったのですが、車に乗って移動していくようなイメージに変えていったりしました。

アレンジは、清水信之さん。ニューミュージックの大御所の方にサポートして頂いたことで、どこか懐かしい空気感というのが私の強みであるのかもしれないと、改めて自信がついた感覚はあります。



5. snow poppins / with あいらもえか
いくつか曲を提供させてもらっていた「ガチンコ3」のメンバーをイメージして書いた歌です。

初めてみんなと歌ったライブで、それぞれがワンコーラスずつ歌詞を書いてきてくれたんだけど、それがとてもかわいくて良かったんです。一人ひとりの個性が出ていて、順番に歌っているのを聞いていると、女の子同士が会話しているみたいに聴こえてきました。今回収録したバージョンの歌詞は、それが元のイメージになっています。

交換日記(時代を感じる!?)みたいな感じかな〜と考えていたんですが、今でも似た様なやり取りを、私もLINEで友達としています。そういうところはいつまでもあの頃のまま。

今回あいらちゃんともえかちゃんに歌ってもらえることになって、彼女たちとのレコーディングが終わってから、このタイトルをつけました。”雪の妖精”。ふたりにぴったりだと思います。

昨年の大晦日に一緒にライブをやってからのお付き合いですが、いつも本当に努力家で、この日の歌入れも完璧。頭が下がります。

プロデュースは、沼能友樹さん。ともきさんは、「7つのうた、あなたの虹になれ」の制作でお世話になった時からそうですが、私の頭の中で鳴っている音を、言葉にしなくても読み取って形にしてくれるという超能力があります。超能力者です。



6. 愛だなんて呼ぶからだ MV
この作品のなかで一番最初に生まれた歌です。

初めての弾き語りワンマンライブへ向けて、自分の音楽や人生について振り返っていた頃でした。
“愛”や”夢”。すぐ側を通り過ぎたのに、掴むことができなかったもの。手に入れようと目指してきたものは、幻だったのかもしれない。気付いたあとに向き合った現実は、魔法が溶けたあとみたいに、全く別物に見えていました。

そんなネオ現実をフラフラと歩きながら、今の私が持っているものによくよく目を凝らしてみました。歌をつくる環境、歌う場所、それを受け取ってくれる人。それを大事にするだけで本質的には十分なはずだ。音楽に対する気持ちの純度の高い部分だけが浮き上がって見えてきました。

プロデュースしてくれたのは、久保田光太郎さん。この作品の、私の音楽人生の、核になるようなこの歌を、預けられるのはこの人しかいない!ということでお願いしました。光太郎さんとの出会いは、PERIDOTSのレコーディングに何年か前に参加させてもらったときです。それ以来、PERIDOTSの音楽は私の無人島に持っていく一枚にいつもカウントされていくぐらい大切な存在だったので、今回は演奏もメンバーのみなさんにお願いすることができたことは、一生の宝です。
しかも、初めてのアナログレコーディング。アナログって、テープに記録していく、今はあまり使われない技術なんです。予算とか手間とかの問題もあるけど、扱える人、場所がないらしいんですね。今回は本当に貴重なことを経験させてもらいました。

実際に音の違いをスタジオで体感したときは、衝撃でした。
ほぼ同じメンバー、同じ環境で演奏した「涙色ランジェリー」と合わせて、それぞれの楽器の存在感に耳を凝らして聴いて欲しいです。



7. 電子レンジアワー
アルバムタイトル曲であり、一番最後に書いた曲。

いちにちがんばって働いて帰って来て、脱いだ上着もそのままに、お風呂のお湯をためながら、冷凍食品をチンする。テーブルが回っている様子をぼんやり眺めながら、今日一日のこと、明日のこと、人生のことを考える。そんな時間のこと、誰に話したりするわけじゃない、何でもない時間なんだけど、でもとても必要な日常のすき間。

そういうときに聞いてほしい歌であり、アルバムです。
演奏は、いつもライブでサポートしてくれているキーボードのSUNNYさん。洗練されていながらも、やんちゃさを感じるSUNNYさんの演奏が、ネガとポジの間を浮遊するような絶妙な雰囲気を作り出してくれています。

考えたって答えなんてなかなか出ないけど、そんな私も生きている。今感じていることも人生の一部だし、音楽のひとつになるはずだ。そう信じて作りました。






2018.11.28 Release『電子レンジアワー』
¥1,800(tax in) MUCD-1422

1. 涙色ランジェリー / &矢井田瞳
2.​ くしゃみ
3. 休みの日
4.​ 君のいちばんにはなれない
5.​ snow poppins / with あいらもえか
6. 愛だなんて呼ぶからだ
7. 電子レンジアワー